
サ行・タ行が言いにくいとき、口の中で何が起きているのか
オンライン会議で「もう一度お願いします」と言われる回数が増えた——そんな小さな違和感から、前歯の隙間を思い出す方がいます。サ行やタ行は、歯と舌のわずかな距離で音が決まる繊細な音。この記事では、歯並びと発音の関係を仕組みから整理し、相談を検討する目安までを歯科医師の視点でお伝えします。
この記事の要点まとめ
- 前歯の隙間や噛み合わせのズレは息漏れを招き、サ行やタ行の発音に影響することがあります。
- 滑舌には舌の癖や口腔機能も関わるため、歯並びを整えても発音の変化には個人差があります。
- 原因を把握するためにも、気になる際は歯科医院で診査や相談を受けることが大切です。
すきっ歯や噛み合わせのズレが発音に影響する仕組み

日本語の子音の多くは、舌・歯・唇が数ミリ単位で位置を変えることで作られています。歯並びはその「音を作る壁」の一部にあたるため、形が変われば音の響き方も変わり得ます。
サ行が発音しにくくなる「空気漏れ」の仕組み
サ行は、舌先を上の前歯の裏側に近づけ、細い隙間に息を通して摩擦音を作る音です。ところが前歯に隙間(すきっ歯)があると、息の一部がそこから横や前へ抜けてしまいます。摩擦音は息の通り道が一点に絞られて初めて鮮明になるため、分散すると「スー」とした曖昧な音になりやすいというわけです。不正咬合と舌・嚥下の機能は相互に関連することが報告されており5、単純な見た目だけの問題として片づけにくい領域といえます。
タ行がこもる原因になる舌先の動きの制限
タ行は、舌先をいったん上の歯ぐきの少し後ろに密着させ、閉じた空気を一気に開放する破裂音です。前歯が前方に傾いていたり、上下の前歯が噛み合わずに開いていたりすると、舌先が接する位置が安定しません。結果として密閉が甘くなり、音の立ち上がりがぼやけて聞こえることがあります。開咬と嚥下パターンの関連は複数の研究で検討されています5。
発音のしにくさと合わせて出やすい二次的なサイン
滑舌だけでなく、次のような点に心当たりがあるかを確認してみてください。
- 安静時に上下の唇が自然に閉じにくい、口が開きがち
- 飲み込むときに舌が前歯を押す感覚がある
- 食事中にこぼれやすい、麺類などで音が出やすい
- 朝起きたときに口の中が乾いている
こうしたサインは口腔機能全体のバランスと関わることがあり、口腔の健康情報は公的機関でも基礎知識が整理されています1。
発音しにくくなる歯並びの特徴と、歯並び以外に潜む要因
すきっ歯・出っ歯・受け口・叢生で異なる発音への影響
同じ「歯並びの乱れ」でも、音への関わり方は一様ではありません。
- すきっ歯(空隙歯列):前歯の隙間から息が抜け、サ行・ザ行など摩擦音の輪郭がぼやけやすい傾向
- 出っ歯(上顎前突):上下の前歯の位置関係がずれ、唇を使うパ行・バ行や前歯を使う音の作り方に影響することがある
- 受け口(下顎前突):下の前歯が前に出ることで、舌先の収まる場所が変わりやすい
- 叢生(そうせい):歯が重なり舌の動く空間が狭くなり、舌先の細かな位置取りがしにくくなる場合がある
いずれも「必ずこうなる」ものではなく、程度と組み合わせで現れ方が変わります1。
歯並びが整っていても滑舌が悪くなるケース
歯列がきれいに並んでいても、発音のしにくさを感じる方はいます。飲み込むたびに舌が前歯を押す舌癖、唇や頬の筋力の低下、鼻づまりによる口呼吸の習慣、話すスピードの速さなど、要因は口腔機能側にあることも少なくありません4。小児期からの口腔機能の育ちについては、専門学会が発達の視点から情報を発信しています2。
「歯並びを治せば発音は必ず改善する」という誤解
ここが最も誤解されやすいところです。歯並びは発音に関わる条件の一つであって、唯一の原因ではありません。歯の位置を整えることで音を作る環境は変わり得ますが、発音の変化そのものを保証できるものではないと考えてください。舌の使い方の癖が残っていれば、歯だけを動かしても話し方の傾向は続くことがあります。筋機能訓練(MFT)と矯正的な対応を組み合わせる考え方が検討されているのも、この理由によるものです5。
マウスピース部分矯正で滑舌が変わる可能性はあるか

すきっ歯の状態と歯の動きによる変化の目安
前歯の隙間が数ミリ程度で、奥歯の噛み合わせが安定しているケースでは、前歯を中心に動かす部分的な矯正が検討対象になることがあります。隙間が閉じれば息の通り道の条件は変わりますが、発音の感じ方には個人差があり、一律に語れるものではありません5。
なお矯正治療は自由診療(公的医療保険が適用されない)にあたります。前歯中心の部分的なマウスピース矯正について一般に言われている目安は、次のとおりです。
- 治療期間:おおむね3か月〜1年程度
- 通院回数:おおむね5〜10回程度(検査・診断、装置の受け渡し、経過確認、保定開始を含む)
- 費用相場:おおむね30万〜50万円程度(精密検査・診断料、装置料、保定装置の費用が別に必要となる場合があります)
ただしこれらは一般的な相場・目安であり当院の費用ではありません。実際の期間・回数・費用は歯の動く量や口の中の状態、医療機関によって異なり、当院の費用は診察のうえでご案内します。
マウスピース型装置による部分的な矯正では、口腔内スキャナーや歯科用CTなどを用いた精密な検査により、動かせる範囲を事前に確認したうえで治療計画を立てることが一般的です。
装置を付けた直後に感じやすい発音の違和感
マウスピースは薄い樹脂製ですが、装着直後はサ行やタ行が普段と違って感じられることがあります。舌先が触れる面の厚みがわずかに変わるためで、感じ方には個人差があります。大事なプレゼンが控えている時期は、開始時期の相談をしておくと落ち着いて進められます。
歯並びを整えても発音が変わりにくいケース
舌小帯が短く舌の可動域が制限されている、骨格的な前後差が大きい、鼻や耳の領域に要因がある——こうした場合は、歯列への対応だけでは説明がつきません。原因を切り分けて把握することが、適切な対応を考えるうえで重要です。
【矯正治療の主なリスク・副作用】
- 歯が動く際の痛み、歯が浮いたような感覚、装置による違和感
- 装置のふち(縁)が唇・頬・舌にあたることによる粘膜の傷や口内炎
- 一時的な発音のしにくさ、唾液が出にくい感じ
- 歯や歯ぐきの一時的なしみる感じ(知覚過敏)、歯ぐきの腫れ
- 装置周囲の清掃が不十分な場合のむし歯・歯周病のリスク上昇
- 歯の動き方に個人差があり、治療期間・回数が予定より延びること
- 装着時間が守られない場合、計画どおりに歯が動かず、治療計画の変更や別の方法への切り替えが必要になること
- 歯の根が短くなる(歯根吸収)、歯ぐきが下がる(歯肉退縮)ことがあること
- まれに歯の神経が弱る(失活)、顎の関節に症状が出ること
- 保定装置(リテーナー)を使わない場合などに、歯が元の位置へ戻る後戻りが起こること
- 装置の材料(樹脂・金属など)によるアレルギー症状が出ることがあること
自己判断で終わらせず歯科で相談すべき目安と受診先の選び方
自宅で確認できる発音と歯並びのチェック視点
鏡の前で「さしすせそ」「たちつてと」をゆっくり発音し、次の点を見てみてください。
1. 軽く噛んだとき、上下の前歯の間に隙間が見えるか
2. サ行のときに舌先が前歯の間から見えていないか
3. 力を抜いた状態で唇が自然に閉じているか
4. 飲み込むときに顎や口元に力が入っていないか
複数当てはまり、それが日常のやりとりで気になっているなら、相談してみる価値があります3。
一般歯科・矯正歯科・口腔外科で相談できる内容の違い
歯科では、むし歯や歯周病の状態、被せ物の適合など、口全体の健康面を含めた確認ができます。歯ぐきの炎症が進むと歯の位置にも影響し得るため、土台の評価は欠かせません4。歯並びの移動を検討する場合は矯正歯科、顎の骨格的なズレが疑われる場合は歯科口腔外科での評価が視野に入ります。舌の動きや発話そのものに課題がありそうなときは、言語聴覚士が関わる領域との連携が必要になることもあります。
豊橋市で診査・診断を受ける際の流れ
豊橋市内で相談する場合も、進め方は大きく変わりません。カウンセリングで悩みを伝え、レントゲンや口腔内スキャナーによる精密検査、その結果に基づく診断と治療計画の説明——この3段階が基本です。仕事帰りに通える立地か、通院回数はどの程度かを初回に確認しておくと、その後の判断がしやすくなります。気になる点をメモして持参すると、限られた相談時間を有効に使えます。
よくある質問
Q1. 滑舌が気になる原因として、どのようなものが考えられますか?
A. 歯並びや噛み合わせの状態、舌の癖、口周りの筋力、鼻呼吸のしにくさ、話す速さなど複数の要素が重なることが多いとされています。一つに絞らず、診査で順に確認していく流れが一般的です。
Q2. 歯列矯正を行うと発音は良くなりますか?
A. 歯の位置が変わることで音を作る環境は変化し得ますが、変化の程度には個人差があり、改善を保証できるものではありません。舌の使い方の癖が関わっている場合は、そちらへの対応も併せて検討されます。
Q3. 前歯のすきっ歯だけでも相談してよいのでしょうか。
A. 気になる部位が限られていても相談は可能です。ただし前歯だけを動かせるかは、奥歯の噛み合わせや骨格の状態によって判断が分かれます。検査のうえで適応を確認します。
Q4. マウスピース装着中は話しにくくなりますか?
A. 装着直後は違和感を覚える方が多く、特にサ行で気になりやすい傾向があります。感じ方や慣れ方には個人差があり、違和感が続く場合や痛み・粘膜の傷などがある場合は、担当の歯科医師にご相談ください。
Q5. 滑舌を理由とした矯正に保険は使えますか?
A. 審美目的や一般的な歯並びの改善を目的とする矯正は自由診療です。顎変形症など、国が定めた特定の診断基準に該当する場合に限り保険が適用される制度があります。該当するかは診査で確認が必要です。
参考文献
1. 厚生労働省「健康づくりサポートネット(口腔・歯の健康)」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/teeth
2. 日本小児歯科学会 https://www.jspd.gr.jp/
3. 日本臨床歯周病学会 https://www.perio.jp/
4. Inchingolo AD, et al. Orthodontic treatment in patients with atypical swallowing and malocclusion: a systematic review. J Clin Pediatr Dent. 2024. PMID: 39275817 / DOI: 10.22514/jocpd.2024.100
5. Cenzato N, Iannotti L, Maspero C. Open bite and atypical swallowing: orthodontic treatment, speech therapy or both? A literature review. Eur J Paediatr Dent. 2021. PMID: 35034464 / DOI: 10.23804/ejpd.2021.22.04.5
平成16年7月28日 スマイルデンタルクリニック 開業
歯科医師
インビザラインGo プラチナプロバイダー
【所属学会】
日本歯科審美学会 会員
日本口腔インプラント学会 会員
日本顕微鏡歯科学会 会員
日本歯科医師会 会員
愛知県歯科医師会 会員
豊橋市歯科医師会 会員
骨粗鬆症連携推進事業協力歯科医 会員
生活習慣病保健指導医 会員
豊橋市立看護専門学校 歯科非常勤講師
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