マウスピース矯正は、透明で取り外し可能という大きなメリットがありますが、治療中に「歯がしみる」「冷たいものが痛い」といった知覚過敏を感じる患者さんも一定数います。これは異常ではなく、多くの場合は一時的な生理的反応として現れるものです。しかし、原因を正しく理解し、適切に対処することで、ストレスを減らしながら快適に治療を続けることができます。
1. なぜ知覚過敏が起きるのか?
● 歯が動くことで神経が敏感になる
矯正治療では、歯に継続的で軽い力を加えることで動かしていきます。歯は動く際に歯根膜や周囲の組織が刺激されるため、神経が一時的に過敏になり、冷たい飲食物や噛んだときの刺激に反応しやすくなります。
これは矯正治療全般に起こりうる自然な反応です。
● マウスピース交換のタイミング
特に新しいアライナーに交換した直後は力が強くかかり、数日間だけ知覚過敏が起きやすくなります。
「交換した日〜3日程度が最も敏感」という人が多い傾向があります。
● 歯茎の退縮による知覚過敏
元々軽い歯ぐきの後退(歯肉退縮)がある場合、矯正力が加わることで象牙質が刺激されやすくなり、知覚過敏が出やすくなります。
とくに成人矯正では歯周組織の状態が個々に違うため、敏感になりやすい部位が出てくることがあります。
● 食いしばり・噛みしめによる影響
矯正中は歯の位置が変化することで咬み合わせも変わり、無意識で食いしばりや噛みしめが生じることがあります。これが歯に余分な負担をかけ、知覚過敏を悪化させることがあります。
2. 知覚過敏は危険?治療を中断すべき?
多くの場合、矯正中の知覚過敏は 一時的であり、治療の進行に支障はありません。
新しいアライナーに慣れるにつれ痛みが自然と落ち着いてくるケースがほとんどです。
ただし、以下のような場合は歯科医院への相談が必要です。
•痛みが1週間以上続く
•特定の歯だけ激しくしみる
•温かいものでも痛む(神経炎症の可能性)
•歯ぐきの腫れや出血が増えた
こうしたケースでは「過剰な負荷がかかっている」「虫歯や歯周病が隠れている」など別の要因がある可能性があります。
3. 自宅でできる知覚過敏の対処法
● 知覚過敏ケア用歯磨き粉(シュミテクトなど)
カリウムイオンや硝酸カリウムを含む歯磨き粉は、神経の過剰反応を抑え、しみる症状を和らげます。
毎日使うことで数日〜数週間で効果が現れます。
● ブラッシングの力を弱める
強い力で磨きすぎると歯の表面が摩耗して知覚過敏を悪化させます。
やわらかめの歯ブラシで優しく磨くことが大切です。
● 冷たい飲食物を控える
痛みが強い時期は氷水・かき氷・冷たいジュースなどは避けたほうが無難です。
● 食いしばり対策
睡眠中の食いしばりがある場合は、矯正中であってもマウスピースが保護の役割を果たします。
日中は「歯は軽く離す」を意識するだけでも負担が減ります。
4. 歯科医院でできる対処
症状が強い場合、歯科医院では以下の処置が可能です。
•フッ素塗布
•歯の表面のコーティング
•知覚過敏抑制剤の塗布
•咬合調整(噛みしめによる負担の軽減)
特にフッ素は歯質を強化し、継続的な効果が期待できます。
まとめ
マウスピース矯正中の知覚過敏は珍しいことではなく、歯が動くことによる一時的な反応です。
多くの場合は自然におさまり、治療を妨げるものではありません。
しかし長引く痛みや強い症状がある場合は、虫歯や過度な力が関与している可能性があるため、早めに歯科医へ相談することが大切です。
正しい対処を行いながら治療を続ければ、快適に美しい歯並びを目指せます。

歯科衛生士.Y