結論から言えば、歯周病がある状態ではすぐにインビザライン矯正を始めることはできません。
しかし、歯周病の治療を行い、歯ぐきと骨の健康状態が安定すれば、インビザラインによる矯正治療は可能になります。つまり、「できない」のではなく、「治療と管理を行えばできる」というのが正確な答えです。
- なぜ歯周病のまま矯正してはいけないのか
歯周病とは、歯を支える骨(歯槽骨)や歯ぐきが炎症によって破壊される病気です。初期では歯ぐきの腫れや出血にとどまりますが、進行すると骨が溶け、歯がグラグラ動くようになります。
インビザラインを含む矯正治療では、アライナー(マウスピース)で歯に一定の力をかけて動かします。健康な骨であればこの力が適切に働きますが、歯周病で骨が減っていると、弱った支えに無理な力がかかり、歯がさらに揺れたり、動揺が悪化する危険があります。最悪の場合、歯を失うリスクもあるため、歯周病がある状態で矯正を始めることは避けなければなりません。
- 矯正治療を始める前の準備
歯周病がある人は、まず歯周病治療と口腔環境の改善からスタートします。
歯科医院では、歯石の除去(スケーリング)、歯周ポケットの洗浄、必要に応じて外科的な治療を行い、歯ぐきの炎症を抑えます。家庭では、正しいブラッシングやフロスの使用を徹底し、プラークをためないことが重要です。
歯ぐきが引き締まり、出血や腫れがなくなり、骨の状態が安定すれば、矯正治療を検討できる段階になります。このとき、歯周病の進行が止まり、歯の動揺がないことが確認されることが条件です。
- インビザラインは歯周病のある人にも向いている?
実は、軽度〜中等度の歯周病がある人には、ワイヤー矯正よりもインビザラインの方が適している場合があります。
理由は以下の通りです。
- 取り外し可能で清掃しやすい:ワイヤー矯正ではブラケットの周囲に汚れがたまりやすく、歯周病が悪化しやすいですが、インビザラインは食事や歯磨きの際に外せるため、清潔を保ちやすいです。
- 力のコントロールがしやすい:アライナーは段階的に優しい力で歯を動かすため、歯周組織への負担が少なく、骨吸収のリスクも抑えられます。
- 歯肉の状態をモニタリングしやすい:透明なマウスピースのため、歯ぐきの腫れや出血など、変化に気づきやすいという利点もあります。
ただし、これらのメリットを活かすには、歯周病がきちんとコントロールされていることが前提です。
- 矯正中の歯周病管理
インビザライン治療中は、歯周病の再発を防ぐための定期的なメンテナンスが欠かせません。
具体的には、以下のような管理が推奨されます。
- 1〜2ヶ月ごとの歯科検診
- プロのクリーニング(PMTC)によるプラーク除去
- 正しい歯磨きとフロスの使用
- アライナーの清掃(専用洗浄剤やぬるま湯で洗浄)
これらを徹底することで、歯周病の再発を防ぎつつ、矯正を安全に進めることができます。
- 重度の歯周病の場合
歯槽骨の吸収が進行し、歯が大きく動揺している場合は、残念ながらインビザラインを含む矯正治療は適応外になることがあります。その場合は、歯周病の外科治療や骨再生療法を行い、ある程度安定してから矯正を検討するケースもあります。治療の判断は、矯正専門医と歯周病専門医が連携して行うのが理想的です。
まとめ
歯周病があると、インビザライン矯正はすぐには始められませんが、適切な治療と管理を行えば可能です。むしろ、衛生的で清掃しやすいインビザラインは、歯周病を持つ人にとって理想的な矯正法になり得ます。重要なのは、「歯を動かす前に、歯を支える土台を健康にすること」。
歯周病治療と矯正を正しく組み合わせれば、見た目の美しさだけでなく、長期的な口腔の健康を守ることができます。
歯科衛生士.Y