矯正治療と聞くと、全体的な歯並びを治すイメージが強いかもしれませんが、前歯だけを整える「部分矯正」も近年人気を集めています。部分矯正は、治療期間が短く、費用も抑えられることから、比較的手軽に取り組める矯正方法です。しかし、「部分矯正だからリテーナー(保定装置)は不要では?」と考える方も少なくありません。結論から言えば、部分矯正であってもリテーナーは非常に重要であり、必ず装着すべきものです。
■ リテーナーとは何か?
リテーナーとは、矯正治療によって移動した歯を新しい位置に安定させるために使う保定装置のことです。矯正装置(ワイヤーやマウスピースなど)で動かした歯は、すぐに元の位置に戻ろうとする「後戻り」という現象を起こします。これは、歯を支えている歯周組織や骨がまだ新しい位置に適応していないためです。リテーナーを使わずに過ごすと、せっかく整えた歯並びが数ヶ月〜数年で元に戻ってしまう可能性があります。
■ 部分矯正でもリテーナーが必要な理由
1.歯はわずかに動いただけでも元の位置に戻ろうとする
部分矯正は、全体矯正に比べて動かす歯の本数や距離が少ないことが多いですが、移動量が少ないからといって後戻りのリスクが低くなるわけではありません。むしろ、前歯などの目立つ部分は少しのズレでも見た目に大きく影響するため、後戻りが起きるとすぐに気になるケースが多いのです。
2.部分矯正は噛み合わせの変化が少ないため安定しにくい
全体矯正では、歯並びだけでなく噛み合わせも調整されるため、最終的に歯が安定しやすい傾向にあります。一方、部分矯正は噛み合わせにはあまり介入しないことが多いため、歯の接触による固定効果が得られにくく、保定がより重要になります。
3.周囲の歯や骨の形状に慣れるまで時間がかかる
矯正治療によって動かされた歯は、歯槽骨(歯を支える骨)や歯茎の再形成が完了するまでに時間がかかります。歯の周囲の組織が安定しないまま放置すると、歯がまた動き出してしまうため、最低でも2年はリテーナーの装着が必要とされています。
■ リテーナーを怠るとどうなるか?
リテーナーを正しく装着しないと、次のようなリスクが高まります:
- 治療前の歯並びに後戻りする
- 前歯が再び出っ歯やすきっ歯になる
- 再矯正が必要になり、費用と時間が再びかかる
- 歯列が不安定になり、かみ合わせに問題が生じる
一度整えた歯並びを長期的に維持するためには、リテーナーの使用は矯正治療の一環であり、最終段階にして最も重要なプロセスとも言えます。
■ まとめ
部分矯正は手軽で効果的な治療法ですが、矯正が終了した後の保定期間が成功のカギを握っています。リテーナーは、歯並びを美しく保ち続けるために欠かせない装置です。動かした歯が完全に骨に固定されるまで、日々の装着を怠らず、歯科医の指導のもとで正しく使用することが、矯正治療の成果を最大限に活かす方法です。部分矯正であっても、リテーナーの装着を軽視せず、しっかりと保定を行うことが大切です。
歯科衛生士M